私は旅上手です。
高校生のときからけっこうな回数東京と行き来していました。
ですから、新幹線の席をとるのにも様々なことに私なりの意味があるのです。
席をとるには、進行方向からできるだけ後側の車両を選ぶと良いです。
進行方向に向かって前の方をとると、先を行っているという意味のわからない満足感は得られるでしょうが、ホームに出てからの歩かされる距離は最も長いのです。
そして、車両の次は横の並びです。
A、B、C、通路を挟んでD、E、とありますね。
これはBなんてなってしまったらAのメリットである景色が楽しめる、Cのメリットである出入りがラクという両方のメリットが得られず、その旅の時間ずっと窮屈な思いをすることになるのです。
というか、そもそも専ら一人旅の私にとって3人掛けという時点でもう選択肢に無いのです。
大体景色が見えたとしても私の乗る路線はトンネルばかりなのです。
そんなことより私はトイレが近いのです。
トイレに行きたいときに、隣の人がテーブルを下げてPCで仕事をしていたり、お弁当を食べていたりしたら、気を遣いますよね。
ですから、私の選ぶ席は常にD席なんです。
このD席さえ取れているならば、私の旅の快適さは約束されているのです。
今回も当然D席で予約を取っていたのです。
指定席ですから、並ぶ必要など無いのです。
いつものように優雅に慌てることなく乗り込みました。
そして計算通り、乗り込んですぐ目の前の席が私の指定した席です。
しかし、なんとビニール袋が置いてあるではありませんか。
切符を見ても間違いありません。
このD席は私のD席なのです。
なんだってや となっている私の前にスーツ姿の小太りの男性が現れました。
私は、コイツか。私のD席にビニール袋を置く無礼者は。と思いました。ですが今思えばこのビニール袋がこの男性の巧妙な一手だったのです。
『どかしますよ』と言おうとした私に、その男性は満面の笑みで『どうぞどうぞ。窓際の席をどうぞ』と言ってきたのです。
その笑顔は実に人懐こそうで、なんとも断れない雰囲気があり、大体にして既に最高の席を確保している私に対して、まさか席を譲ってくるとは予想だにできず、そのときの私は自分の考えに深い意味があることを忘れてしまったのでした。
『D席に固執する人』という見られ方をするのもどうかと思ったので『じゃあ、どうも』と促されるままにE席に座ったのでした。
まんまと私のD席を手に入れた男性はその後豹変し、肘掛けをとる、背もたれをメチャクチャ倒す、足を組む、新聞をムチャクチャ広げて読む、しまいには靴を脱ぎ、その香りがコチラに届きそうな感じを出したのでした。
私は『やはりな』と思いました。
私のような旅のエキスパートにもこのような不幸が降りかかるのですから、旅の初心者であったらどうでしょうか。
皆さんどうぞお気をつけください。
もう2度とこのようなことが起こらないよう、どの席を取るのが正しいのか、これからも研究を続けたいと思います。