前回の記事では、調節力の年代別の目安と、具体的な例を示してみました。
40歳で正視または完全矯正の状態で手元が25cmまでは計算上は近くがハッキリ見えていることになっていて、45歳では35cmが微妙、50歳では手元をサポートするレンズを迷わずご提案 という内容でした。

ですが、これはあくまで近点距離の計算の話であって、実際に加入度数を決定したり、サポートレンズのご提案をするにはもう一歩踏み込んだ考察が必要になります。
それに35cmで計算しましたが、30cmで見ることも多いというお客様だっていると思います。

特に私の世代の45歳で35cmが微妙というのは、私はサポートレンズは自分でも使っていますし、実際お客様に対してはサポートレンズは私は迷わずご提案します。というのも自分が見えづらかったり眼の疲れを実感したりするからです。理由は明らかですよね。なんとか見えているとはいえ、調節力をほぼフルパワーで使い続けているわけですから、これは疲れて当たり前ですよね。

ちなみに私の眼に完全矯正を入れて、近業距離30cmでの加入度数を測定してみると、1.50Dまでは入りました。
ただ、45歳でこの加入というのは強すぎると思います。
皆さんも測定した加入をそのまま入れるということはやっていないはずです。

であれば、どのくらいその加入を加減してあげるのが良いのか、これを計算でやってみたいと思います。
まあ私も皆さんと同じく、実際の現場では測定によって大体の当たりをつけて、あとはお客様がどのくらいの距離で見ているのかをしっかり観察して、場合によってはプッシュアップ法を使って、それに見合った加入度数を決定しているワケですが、計算することによって、これまで見えていなかったことが見えてくることがあります。

繰り返しになりますが、近くをみるときに調節力をフルパワーで使い続けてしまっては疲れてしまって長続きしません。では、どのくらい加減してあげるのが良いのでしょうか。

目安として、その人の調節力の2分の1から3分の1を残して明視するのが快適な近業(逆に言えば2分の1から3分の2の調節力を使うのが快適ということですね)と言われています。

50歳以下:調節力の約3分の2を使うのが快適(当人の働かせる調節を少し多めにする)
50歳以上:調節力の約2分の1を使うのが快適(当人の働かせる調節を少し少なめにする)

これは、調節力が十分ある人は普段から調節して近くを見ていますので、理論上ラクになるとはいえいきなり調節しなくても近くが見えるような加入を入れてしまっては眼が「ウワッ いつもと違う」となってしまうのを防ぐ意味もあります。

というか、以下の計算は「皆さん、いつも計算して加入度数を決定してください」と言いたいのでは全くなく、計算によって見えてくるものがあるという話をしたいのです。ですから、計算する前に言いますが、皆さんの測定方法は全く変えていただく必要はありません。

まずは私、45歳からやってみます。

近点距離 f(cm)=100/調節力(D)
が基本の公式ですが、今回は近点距離を30cmとし、私の調節力の3分の2の調節力を使うという体で、必要な加入を求めてみます。

近点距離 f(30cm)=100/((調節力(D)*2/3)+必要な加入度数(ADD))
45歳の調節力は3.00Dでしたので、調節力(D)に、3.00Dを代入します。
*2/3は、調節力に3分の2を掛け算しています。

ではいきます。
f(30cm)=100/((3.00D*2/3)+ADD)
30cm=100/((3.00D*0.67)+ADD)
30cm=100/(2.01+ADD)
30(2.01+ADD)=100
60.3+30ADD=100
30ADD=39.7
ADD=1.3233…
必要な加入は1.323だそうです。

ということで、私にオススメのレンズは、MIPSU2、MIPSU2+、ASM BVS-Hということになりますね。ただまあ、遠方を完全矯正にして、30cmの近業距離の場合ですが。

では、40歳ではどうでしょうか。

先ほどと全く同じ公式で計算します。ただ、調節力は年齢が違いますので、もちろん変えて計算します。
近点距離 f(30cm)=100/((調節力(D)*2/3)+必要な加入度数(ADD))
40歳の調節力は4.00Dでしたので、調節力(D)に、4.00Dを代入します。
*2/3は、調節力に3分の2を掛け算しています。

いってみよう!(ファッションユーチューバーげんじ風に)f(30cm)=100/((4.00D*2/3)+ADD)
30cm=100/((4.00D*0.67)+ADD)
30cm=100/(2.68+ADD)
30(2.68+ADD)=100
80.4+30ADD=100
30ADD=19.6
ADD=0.6533…
必要な加入は0.653です。

40歳の方にオススメのレンズは、ASM AVS-Hとなります。
40歳前後で、遠方が完全矯正に近い度数の方であれば、間違いなく意味があります。
正視や遠視の方であれば尚更です。


これは私は自分で計算するまで、明確にはわかっていませんでした。
40歳の方は大体4.00Dの調節力があり、先日の記事では25cmまではハッキリ見えているということで、確かに困っていないといえば困っていないワケです。
ですが、このように計算してみると、その必要性が見えてきます。