弊社では、お客様の新しい眼鏡が長持ちするように、販売時にお手入れの仕方を必ずお伝えしています。そのご案内が漏れなくできているかどうかの目安として、『眼鏡の販売件数に対するクリーナーの販売比率の管理』というものがあるんです。

このクリーナーの販売比率というのは、前述のように『正しいお手入れの仕方をお客様に知っていただく』というのが目的ですので、変に押し売りしたりすることはありませんが、このクリーナーの販売が、自店のSさんがとても上手なんですよね。というか、クリーナーの販売が上手というよりは、お客様と距離を縮めるのがとても上手で、接客業においては欠かすことのできない資質だと思います。

そのSさんと私(私は普段はSさんには遠く及びません。)がこのクリーナーの販売比率で先月、壮絶なデッドヒートを繰り広げたんですね。今回はその最終日の様子をお伝えしたいと思います。

11月29日の営業終了時点で、Sさんは私の販売比率を9%ほど上回っており、シフトの関係でSさんは30日は公休で、比率ですからもうこれ以上下がることは無い状態で11月の勤務を終えました。

最終日に9%のリードというのは大きいですし、一方の私は比率を下げる可能性もあるワケですから余程のラッキーが無くてはこれを覆すことは難しいです。

私が出社すると間もなく、調整をご希望のお客様がいらっしゃったので、帰り際にご提案してみると「じゃあクリーナーを1つください」とおっしゃっていただきました。幸先良いスタートです。

しばらくすると…なんと男性のお客様がクリーナーを3本手に持っているではありませんか!なんというタイミング…!こんな奇跡があるでしょうか!私は何の苦労も無く3本クリーナーを販売することができたのです。

先ほどの1本と合わせて早くも4本。なんと出社して間もなく、Sさんの比率を上回ることができたんです。

…その後は来店状況自体が落ち着き、しばらくの間は眼鏡の販売件数0件に対してクリーナー販売件数4件という状態が続き、Sさんに対してのリードを守り続けていました…。

私は内心「今月のクリーナー比率はいける…!」と思っていました。

特にこの日の私はこの接戦のために新たな知識やトークも準備していたので、眼鏡の販売件数があってもしっかりお客様にクリーナーのメリットをしっかりお伝えする自信がありました。

…しかし…待っても待ってもお客様は来ません。
クリーナーの販売件数は良いのですが、眼鏡の販売件数がこれで良いはずがありません。
眼鏡の販売件数が1件も無いまま「クリーナーの販売比率はSさんを上回ったから良かったですね」では済みません。

眼鏡の実績もありながらのクリーナー販売比率でなくては何の意味も無いと思い始めていた私の目の前に急に現れたお客様は私に向かってこう言いました。

「コレ⤵レンジュダケ⤵カエラレル⤴」ゴリゴリの海外の方が現れました。もちろん日本語はカタコトです。

私の頭の中で何かがガラガラと音を立てて崩れるのを感じました。

だってそうですよね。私が準備した知識やトークというのは相手に通じてこそ意味があります。
日本語自体通じないのではどうすることもできないでしょう。

…これは厳しい…。

と思いながら接客に入りました。
ですが、最初から諦めたりつまらなそうな雰囲気を出してお客様のご機嫌を損ねてしまっては買ってくれるクリーナーも買ってくれなくなる。そう自分に言い聞かせながら、利き目のテストをしたりして「面白いですよね~(^^♪」なんてやりながら楽しい雰囲気で測定できるよう頑張りました。

意外に喜んでくれたので、やってみて良かったと思いました。

そして、レンズ説明とクリーナーのご案内をしてみたところ…
「ヨクワカラナイ。イラナイデス。」

日本語が通じれば「普段どのようにお手入れをしていますか?」とか「スプレータイプとウェットティッシュタイプのどちらを使っていますか?」とかトークを広げることができますが、今回はそれができません。既に目の前で「ヨクワカラナイ」と言っているお客様に対して深堀りするトークをしても、ただの押し売りにしかならないでしょう。万事休すです。

…予想通りですよ~(T_T)‼これ以上の予想通りがあるでしょうか。クリーナーの販売など思いもよらぬことでした…。

その結果、眼鏡の販売件数1件に対してクリーナーの販売件数が4件となり、0.何パーセントかの差でSさんに逆転を許したのでした…。

ですが、営業時間はまだ終わっていません。私はまだ諦めたワケではありませんでした。

そこへ、調整希望のお客様が現れました。
それもけっこう傷みのあるセルフレームで、かなり白くなっていました。
このような状態の眼鏡のお客様は、使用環境が過酷な可能性が高いです。
お手入れをしっかりしないと眼鏡の寿命が縮まってしまいます。クリーナーのご提案が販売につながる可能性があります。

こちらのお客様にお手入れの大切さをお伝えでき、クリーナーをお買い上げいただくことができました。

その結果、眼鏡の販売件数1件に対してクリーナーの販売件数が5件となり、Sさんを再逆転したのでした。

実際には、私は11月は他店に応援に出ていた日もあり、そこでのクリーナー販売比率は高くは無かったので、結局はSさんの勝利です。ですが、見せかけだけの比率ではありますが、それでもSさんと本気で競り合って、「こういうトークはどうだろうか?」「こういう知識はどうだろうか?」「こういう接客はどうだろうか?」と、いろいろ工夫しながら運営した11月の取り組み、今後に活かしていけると思います。

著者

bruno

3 Comments

  1. ドラマのような展開に引き込まれました。
    熱い駆け引き、実務に役立つ考え方、思いがけないトラブル。
    その情熱は販売員というよりアスリートのそれですね。
    見習いたいと思います。

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