前回の「加入度数の決定(お詫びと訂正)」で、過去の記事に私のミスがあったことがわかりました。あれは間違いなく私のミスです。本当にお恥ずかしい。申し訳ございませんでした。

ところで、目的距離40cm、遠用度数は完全矯正で、加入3.0Dや3.5Dというのは、絶対にあり得ないのでしょうか。

私は、通常あり得る最強の加入というのはどのくらいなんだろうと考えました。

最強の加入と言うからには、眼鏡の使用者の調節力は、0でなくてはいけません。
調節力が0Dになるのは、大体75歳くらいと言われていますので、75歳以上のお客様を想定して計算してみます。
最強の加入にしたいですから、距離は近めの30cmを想定します。

近点距離 f(cm)=100/調節力(D)+必要な加入(ADD)
そして、75歳は50歳以上ですから、調節力の約2分の1を使うのが快適(ただ、もともと0ですから、0です)

これで計算します。

いってみよう!
f(30cm)=100/ADD
30*ADD=100
ADD=3.33…

まあ、パパっと暗算できてしまう人も多いとは思いますが、ご覧のとおり眼前30cmをハッキリ見るのに必要な加入度数は3.33…Dですから、あくまで計算上ですが、最強の加入度数というのは目的距離を30cmにしたときに、3.25Dと考えられます。…最強の加入度数と言った割にはあまりに常識的な数字過ぎて、全然面白くないですね…。目的距離をムチャクチャ近付ければ、加入度数は上がりますけどね…。

遠視のお客様であれば、遠視の遠用度数を完全矯正で掛けている人はそこまで多くないと思われますので、その分加入で補わなくてはならない、というケースもあるかもしれません。

もっと言えば、75歳以上のお客様ということになれば、眼球の下方回旋がしにくくなって両用レンズの近用部まで視線が下ろせなくなる人も増えてきますので、それによって強めの加入が必要になる、というケースもあるかもしれません。

そうしたお客様が、「もっとハッキリ見たい」ということで、加入を3.25D以上に設定することは理論上あり得ると言えます。ですから、メーカーでも累進レンズの加入は3.50Dまでは作成されているのだと思います。

ですが、(これは私個人の見解です)遠近両用レンズは加入度が2.25D以上になってくると、中間部、近用部の視野が狭くなり、パソコンのモニターなども見にくくなってくると言われていますので、私は3.25D以上の加入度数で遠近両用眼鏡を作製したことはありません。遠用度数を適切に合わせることで、全て3.00D以内に収める努力をしています。

3.25D以上の加入度数で遠近両用を作りたいとお客様がおっしゃるのであれば、私は遠近両用や遠用単焦点とは別に、中近か近近、近用単焦点をオススメします。

このあたりは技術部門でも話題になったのですが、やはり「絶対ダメということではないですが、遠近両用で3.25D以上の加入はオススメしにくいですね」という話になりました。

『+3.00D以上は要らないかと。
遠用度数の矯正の方が大事だと思います。
+3.00以上はお客様は苦痛しか無いのではないでしょうか。
60歳過ぎたら何らかの原因で綺麗に見える人の方が少ないので、強い加入にするなら、ルーペをオススメしたりすることもあります。
そもそもが遠近をしっかりと使えてる人が多くないので、ミラー法を積極的に使って、店側がアイポイントを確認する意味はもちろん、それ以上にお客様に遠近両用レンズの構造と使い方を知っていただく方が先かなと思います。』