先日、自店で新人Sさん(今度の7月で1年になります。もういつまでも新人Sさんとは言っていられなくなりますね)に「brunoさん、仮枠にレンズを入れる順番ってそれでいいんですか?」という質問を受けました。
私がそのときどのような順番で仮枠にテストレンズを入れていたかというと、
内側(目に近い側)から 強度球面⇒弱度球面⇒乱視⇒累進 のように入れていました。
ただこれは、あくまでこのときはということであって、『常にこうではない』ということは申し上げておきます。
商品のレンズは乱視が目に近く、球面の方が遠くなっているワケですから、皆さんも恐らくSさんと同じ感想を持ったんではないかなと思います。
このときに私は頂間距離と矯正効果の高いレンズがどの位置に入るかということを一番気をつけているワケですが、これはかなり注意深く見なくてはいけません。その理由については後で出てきますので、ぜひ最後まで読んでいただきたいと思います。
私も眼鏡業界に入って、視力測定を先輩に教わっていたころはこのことはスゴく気になっていたものですが、最近はケースバイケースで自分の考えとやり方でやっていたものですから、今になって『正式なものが何かあって、それを知らないとしたらイヤだな』と思い、メーカーさんに問い合わせてみました。
すると、メーカーさんは優しく丁寧に手元には2つ資料があります。と教えてくれました。
一つは仮枠を製造している、とあるメーカーさんの資料でした。
その資料では目に近い方から 累進⇒球面⇒乱視 となっていました。
もう一つは視力測定時に使用するフォロプターが、内部構造的にどうなっているかというもので、
目に近い方から 球面⇒乱視⇒プリズム ということでした。
この2つの資料は目に近い方から 球面⇒乱視というところが共通しており、私にとっては「そうなんだ」とはなりましたが、『乱視⇒球面とした方が良いのではないか』という疑問を消すことはできませんでした。
私が持っている全ての書籍を調べても、仮枠にテストレンズを入れる順番について、決定的な記述は見つけることができませんでした。
こうなってしまってはいつものようにN店長とN先生に訊いてみるしかありません。では、お二人のお考えをお伺いしたいと思います。
N店長:『仕上がり後の想定VD(Vertex Distanceの略。角膜頂点間距離)に合わせたレンズ配置を考えます。鼻の高い人、低い人、使用するテストレンズの枚数などにより、仮枠と実際に作成する眼鏡とでは様々な変化条件を備えています。仕上がり後のVDが12mmを想定したとします。その場合には12mmに相当するテストレンズポジションに「最も矯正効果の強いレンズ」を入れています。S面だから、C面だから、という括りでは考えておらず、矯正効果が強い順にVDプライオリティ(プライオリティ「priority」優先順位、優先権という意味)を高めているということです』
N先生:『クロスシリンダーテストのときは軸度を見やすく、レンズの入れ替えを手早くできるように乱視を一番前に、装用テスト時は目に近い方から順に 乱視⇒強度球面⇒弱度球面⇒累進 の順にしています。乱視が無い場合は一番内側に弱度球面を入れています。装用テストの際は、遠近の仕組み、歪みを体感してもらうために前に入れます。「装用テストでは違和感が無かったのに仕上がり眼鏡は違和感が強い」となるよりは「装用テストではちょっと不安だったけど仕上がり眼鏡掛けたら全然大丈夫だった」となる方が良いかなと思います。
内面、外面、両面複合、両面等は意識してません。
本当は内面累進とか外面累進はテストレンズの中で再現されているはずなので、目に近い方から二枚目に入れるのが仕上がりのシュミレーションとして良い気がしますけど、そこは球面レンズの特等席なので。
「乱視レンズが目に一番目に近く」は、色んな先輩から教えられました。
乱視は主に仕上がりレンズの後面カーブに入っているからというのが理由です。
加工のときに逆軸チェックでパカパカ浮き上がりを見ますけど、それは後面に乱視の大部分が入ってるからですよね。30年以上前は、技術的な問題で乱視は前面に入っていたと聞いたことがあります』
お二人ともありがとうございます!
これでは書籍に「これだ」というのが無いのが分かる気がします。
逆に書籍に書いてあることをしっかり自分のものにできていれば、仕上がりレンズの構造とテストレンズの光学的な働き、仕上がりフレームと仮枠の構造と角膜頂点間距離を意識して、測定を進める場面と装用テストの場面でどうすべきか、そしてお客様のご要望や受け止めのご様子に合わせて使い分けることができるということですね。
ムズッ。これくらいの仕事をしているんですから、アンケートの一枚くらい書いてもらったってバチは当たらんですよ。